
『炎かがよへ』制作秘話
今回は私の3rdシングルであり、初の映画主題歌である『炎かがよへ』の制作秘話をお話していきます。
実はこの楽曲をレコーディングしたのが去年2025年の4月。なので実に1年前の出来事でもあります。1年間を経て改めてこの曲を歌ったり聴いたり、向き合ってみて発見したこと、感じ方が変わったことなどが沢山ありました。
今回はそんな当時をセルフインタビュー形式で思い出しながら、楽曲について語っていこうと思います。
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『炎かがよへ』制作秘話
第一部:揺れていた炎 ― 『炎かがよへ』が形になるまで
第二部:炎を掲げる瞬間 ― レコーディングの日
第三部:灯り続ける理由 ― 私がこの歌を語り続けるわけ
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第一部:揺れていた炎 ― 『炎かがよへ』が形になるまで
今回初めて、映画のための楽曲制作を行うという事で、普段の曲作りとは違う緊張がありました。映画の中の物語がすでに完成していて、その出来上がった世界の中に自分の歌を置く。
『炎かがよへ』は、映画に寄り添って作り上げていった曲でした。
Q:制作はスムーズだった?
正直に言うと、かなり試行錯誤しました。歌詞も何度も変わりましたし、映画サイドの方々とも相談しながら「どうしたら映画に寄り添えるか」を考え続けていました。
物語があるからこそ、言葉ひとつの重みが大きい。
例えば「のこす」と「のこる」。
一文字違うだけなのに、感情の向きがまるで変わってしまう。
私は歌うときいつも、歌詞と物語の流れをとても大事にしています。だから歌詞が一部でも変わるたびに、
「この瞬間の気持ちはどんな温度だろう」
「哀しみと希望が入り混じっているならその割合はどのくらいなんだろう」
そんなことを考えながら、何度も歌い直していました。
Q:時間との戦いでもあった?
すごくその側面はありました。
今回は映画サイドの方にもデモ音源を聴いてもらいながら制作を進めていたんです。
デモ音源はあくまでも完成音源ではないのですが、できる限りの形で届けたかった。
良いパフォーマンスやアレンジからクリエイティブの新たな可能性が見えることもあるし、私はいつも「自分の歌で楽しんでもらいたい」と思っているんです。それはお客さんの前でもそうだし、自分の歌を聴きなれているスタッフさん達にも同様です。
なのでディレクターに「急いで!笑」と言われながらも、ニュアンスを確かめては時間ギリギリまで歌い直していました。
Q:歌い方はかなり試した?
いろいろ試しました。音を切るタイミングや息継ぎの場所を変えたり、声に含ませる吐息の量や表現を変えてみたり。でも途中で、ふと立ち止まったんです。
「初心に帰ろう」
クリックに合わせて、基本のリズムを何度も何度も繰り返し練習していく。パズルをぴったりとはめ込むように音を決まった場所にきっちり置いていくような感覚です。今は遠き大学一年の春、音楽を始めた頃に戻ったような気持ちでした。
どんな表現も、土台がなければ届かない。そのことを改めて思い出した制作だったと思います。
Q:同時期に録音していた2ndシングルの『ライ麦畑の真ん中で ~まだ小さなあなたへ~ 』とはかなり雰囲気の違う曲ですよね。
そうなんです。世界の色も、風景も、登場人物も全然違う。
歌うときに頭の中で描いている景色も、声の使い方も変えなければいけませんでした。
でも不思議と、2曲の間の世界が分断されている感覚はありませんでした。どちらも、「この世界を歌っているのは自分だ」という感覚があったからだと思います。
同じ声でも、違う物語を語ることができる。繰り返し歌ったからこその確かな感覚を胸に迎えた、レコーディング当日。
けれどその日、私は思っていたよりずっと緊張していたみたいです。
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第二部:炎を掲げる瞬間 ― レコーディングの日
レコーディング当日、スタジオには映画サイドの方々も来てくださっていました。
軽くご挨拶をした後、スタジオは色んな方から持ち寄られた差し入れのお菓子でいっぱいに。
お菓子だらけだ!レコーディング後の楽しみが増えた、とそのときはまだ落ち着いていたんです。
「今日は喉の調子もいいし、頑張ろう」
そう思いながらレコーディングルームに入った瞬間——
声が裏返りました(笑)
Q:やっぱり緊張していた?
自分ではしていないつもりだったんですけどね。頭は冴えているし、歌う方向性も道筋も見えている。先に歌った曲では自分も周りも納得いく歌が歌えた。
メンタル的にも喉のコンディション的にもかなりいい状態なはず。
けれど先に録音した曲よりも調子が出ない。
しかし音楽プロデューサーとディレクターはオーディションの頃からずっと一緒にやってきてくださった方々です。こうなることも全部お見通しだったんだと思います。
1番を軽く歌った後、ディレクターがこっそり手書きのメモを渡してくれました。
「すごく良い!周り気にせず」
その言葉を見た瞬間、最初に言われた言葉を思い出したんです。
「レコーディングを楽しもう」
そこから少しずつ、本当の意味で冷静になれた気がしました。
Q:レコーディングする場所から周囲の人は見えていましたか?
めちゃくちゃ見えていました(笑)レコーディングルームとディレクションルームは、透明なアクリルで隔てられているだけだったので。
音楽プロデューサーもディレクターも、映画サイドの方々も、全員の表情が見える。
音楽プロデューサーたちも「必要ならマイク調整するから大丈夫。楽しんでこ!」といつも通りの空気を作ってくれていました。映画サイドの方たちも笑顔でグッドマークを作りながらリラックスした表情でレコーディング現場を見てくださっている。
この場にいる一人一人全員が一つの音楽に向けて意識を向けている。
ふと、私は一人で歌っているわけじゃない。そう実感した瞬間でした。
Q:歌うとき、一番意識したことは?
いかにそれぞれの視点の人物になりきるか、という事です。
この曲は特に、視点が入れ替わるんです。
裏切られたと想いを募らせる者、健気に子供を守ろうと強くあろうとする母親、そして、そのすべてを見守る語り部のような存在。
それぞれ同じ人物を想っていても、そこに抱く感情はまったく違う。
愛憎が入り混じる瞬間もあれば、遠くから静かに見守る愛もある。
それぞれの人物の感情がちゃんと伝わるように、一人一人になりきることを意識しました。
レコーディングの最後、録り終えた歌声を全員で聴き終え、自然と拍手が起こりました。レコーディングの最後の瞬間は、私にとって「行っておいで」と愛する存在の背中を押すような瞬間です。
その時出せる精一杯、一番良い歌を歌えたという満足感、この素晴らしい時間が終わってしまうさみしさ、けれど終わりがあるからこそまたいつか新しい歌が生まれていくのだという形容しがたい静かな感情が胸の中にゆっくりゆっくりと渦巻いていたのをよく覚えています。
その時はまだあまり想像ができていませんでした。
この歌が、映画の中でどんなふうに響くのかを。
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第三部:灯り続ける理由 ― 私がこの歌を語り続けるわけ
試写会当日。
映画のスクリーンの中には、色鮮やかで美しい着物姿の登場人物たち。
そんな登場人物たちが着物ではなくラフな洋服で、現実に存在する役者さんとして私の隣の席で談笑している。
それはとても不思議な感覚でした。物語の世界の中に迷い込んだような。『不思議の国のアリス』もこんな気持ちだったのかも。
とにかく、あんなに緊張して映画を観たのは、人生で初めてだったと思います。
Q:歌が流れた瞬間、覚えていますか?
もちろんです。「どこで流れるんだろう」
そう思いながら、今か今かと固唾をのむ私。緊張で首の筋肉が硬直して痛くなるくらいでした。
そしてついに、その瞬間が来た。
映画館に響いた、あのとき何度も歌ったフレーズ。それは永遠のような一瞬でした。
けれど振り返ると、その後はずっと夢の中にいるような感覚で映画を観ていた気がします。
もちろん嬉しかったし感動もしたのですが、ものすごくびっくりした時の驚きが勝ってしまって喜びが後からやってくるような感覚というか…
もしかしたら、本当の喜びは公開の日まで待っていてくれるのかもしれません。
Q:今、改めてこの曲を歌うとどう感じますか?
第一部でお話したようにこの曲をレコーディングしたのは、もう一年くらい前なんです。
なのでこの曲がリリースされるのはタイムカプセルを開けるような感覚があります。
もちろん当時も、その時の最高の歌を歌っていました。
でも日々歌っているからこそ、今の方がこの曲を理解しているとも思うんです。
なぜか?と考え続けて、最近その理由に気づきました。ファンクラブで続けている朗読です。
私はファンクラブの配信で毎月、その月ごとのテーマ曲から着想を得たショートストーリーを書いています。曲の世界の中で使われている色やもの、キャラクターを使って、「私の目線からみたその曲の世界」を再構築、新しい世界を作るんです。そしてできあがった物語を、物語のキャラクターごとに声を変えて朗読する。その経験を重ねるうちに、ふと思ったんです。
『炎かがよへ』での私の役割は、吟遊詩人や琵琶法師のようなものなのかもしれないって。
昔々の物語を、歌として語り継ぐ人。
そう思ったとき、この曲の意味がすとんと自分の中で腑に落ちました。そうか、自分は物語を歌を介して伝えていたんだと。
人生って、本当に無駄なことがないんだなと思います。
いろんな経験が、思わぬところで繋がっていく。だから『炎かがよへ』もきっと、これから少しずつ形を変えながら歌い続けていく曲になる気がしています。
さて、ここまで読んでくださりありがとうございます。
是非もう一度、『炎かがよへ』を聴いてみてください。
そこには、まだ私も気づいていない、語られていない物語が存在するかもしれません。
<アポロ>
